Doi,Y., Itoh,M., Yonemura,S., Ishihara,S., Takano,H., Noda,T., Tsukita,Sh., and Tsukita,Sa.
J.Biol.Chem. 274:2315-2321 (1999)
【筆頭著者紹介】
土井喜宣さんは、大阪大学の内科のお医者さんで、松沢教授のご推薦のもと、 我々のグループに生理学研究所時代から加わり、ＥＲＭ蛋白質の研究を続け てこられました。 今春、目出度く学位をとられ、今は大阪大学の医局で新 しいプロジェクトを始めるべく頑張っています。 今年、土井さんと諸井さ んが卒業され、生理研時代の学生さんはゼロとなりました。 土井さんは、 我々の研究室で全く基礎の無かったノックアウトの技術をゼロから作り上げ られるのに努力されました。 そのため、労力の割に報われない日々が続き、 気の毒な面がありましたが、最終的には立派にモエシンのノックアウトに 成功され、この論文として発表されました。 この努力はこれからの研究 人生に決して無駄にならないと信じて、ご活躍を期待しています。 とにかく、品のいい、育ちのいいお医者さんで、我々のところにいる間に 素敵な才媛と結婚され、一児の父となられました。
モエシンの遺伝子は、Ｘ染色 体上にあることが分かってい ました。 そこで、土井さん は、この遺伝子を単離し、タ ーゲッティングベクターを作 製しました。 これを用いて、 ＥＳ細胞のモエシン遺伝子を 破壊し、それからモエシンを 発現しないマウスの作製を試 みました。 このようなモエ シンを持たないマウスは正常 に生まれ、左のウエスタンブ ロットで分かるように、モエ シンは完全に消えていましたが、不思議なことに、エズリンもラディキシンも代償的に増え ている様子は全くありませんでした。 これまで既に２才近くなっていますが、全く異常が見られません。
そこで、モエシン欠失マウスから、血小板を集めました。 マウスの血小板は、ＥＲＭのうちモエシンがほとんどを 占め（ラディキシンが少し出ていますがモエシンの１０％ 以下です）、また、血小板の凝集にモエシンとそのリン酸 化が重要だと言われていました。 しかし、驚いたことに 、このモエシンを欠失した血小板も、全く正常に凝集した のでした（左図）。
次に、やはりモエシンが多いと言われるマクロ ファージをとってきて、微絨毛の様子を走査型 顕微鏡で観察してみましたが、左図のように、 全く変化がありませんでした。 その他にも考えられる限りの解析を行いました が、細胞レベルでも何の異常も見出されません でした。 ＥＲＭの機能的重複がそんなにも強 いのでしょうか？ 多くの謎を残す結果ですが 、真実ですので、今後のＥＲＭ研究に大きな問 題点を投げかけたと言えるでしょう（研究室ニ ュースの項参照）。