岩田研の出張リポート

Vol.010

Keystone symposia 2016, G Protein-Coupled Receptors (2/21-25, 2016)

 アメリカコロラド州で開催されたKeystone symposia 2016, G Protein-Coupled Receptorsに参加してきました。
 無論、たまには気晴らしにアメリカにでも行ってくるか!というような半端な気持ちではなく、世界の潮流に触れることで自分の立ち位置を確認し、今後の研究に生かすためといった、 純粋かつ崇高な精神に基づいての行動であります。

 さて、今回の出張体験記執筆にあたり、初めにKeystone symposia 2016, G Protein-Coupled Receptorsのワークショップが、本当に‘キーストン’で開催されたことについて触れておきたい。  この一文を読んでハテナと思われた方は、数週間前の私と一緒でございます。…なんでもKeystone symposiaは、アメリカコロラド州キーストンに限らず、世界各地で開催されているものらしい。 アイルランドや南アフリカ、この日本でも。高名なKeystone symposiaなので私のようなものでもその名称は知っていたが、てっきり地名だと思っていた。お恥ずかしい限りだ。しかし、 考えていただきたい。コロラドから南アフリカまでは16,000 kmもある。日本とブラジルの距離が17,000 kmであることを考えるとほとんど地球の真裏と言っていい。本当は、千葉県にある某テーマパークが‘東京’を名乗るのとはわけが違うのである。
(地名の) キーストンは、アメリカ中西部 (でいいのかな?) のデンバー空港からバスで2時間ほど西に行った標高2,800mのリゾート地である。皆の目的はスキーやスノーボードなどのウィンタースポーツなのだろう。バスに乗り込む乗客の荷物にもそれらしきものが多く見受けられた。したがって、キーストンにあるのは山、湖が凍っただけのスケートリンク、そしてホテルまたはロッジのみである。我々は高額なホテル代をケチるために会場から最も離れたところにホテルを取ったが、会場までの道のりにはたった一つの信号機を除いてまったく何もない。純粋なウィンターリゾートである。  そんなキーストンに滞在した5日間は、気温こそマイナスであったものの、天候は快晴。日中はかなり過ごしやすかった。最高のアウトドア日和であっても、我々の目的はあくまでシンポジウムなのである。

 Keystone symposiaの最大の魅力は、参加者が200人程度と比較的少ない規模で行われることと、講演がすべて世界のトップ研究者によって行われるというところにある。したがって、 気の休まる時間は一瞬たりともない。演者の一言一句を逃さないように集中して臨まなければならない。セッションは朝の8時から。お昼には5時間程度の空き時間が用意されており、 各々、アクティビティーだとか研究打ち合わせに使っていたようである。ちなみに我々は、1日だけトレッキングに参加したものの、あとはポスター発表の準備や午前中に聞いた講演について熱 く議論を交わしたりしていた。または、素晴らしい講演が朝から続いて頭を使いすぎたのと時差ぼけ (あと軽い高山病もあったのかもしれない) で微睡んでいたりした。当初はこの体験記を盛り 上げるべく、トピックとなるようなエピソードを作ってやろうと意気込んでいたのだが、実際にはそんな余裕は一切生まれてこなかった。それほど濃厚な4日間だった。
 Keystone symposiaに参加して、貴重な体験をすることができた。先にも書いたように講演はどれも興味深かったし、ポスター発表では、多くの人が私の拙い英語に嫌な顔をせず、熱心に聞いて 質問してくれ、「(私のこれまでの研究経歴から) これは必ず、君が解くべきだ!」と激励してくれる人までいた。自らの研究者人生を顧み、これからの研究の道を改めて示してくれたこの シンポジウムに感謝しつつ必ずや標的受容体の構造を明らかにすると心に誓ったのである。

   (2016年3月 椎村 祐樹)    





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