ホームページ改訂前までのクローディン発見ストーリーの後、予想以上のスピードでクローディン研究が世界に広がり始めている。 この半年の間に起こった事件（？）を追ってみる。
まず、我々の進展を紹介しよう。 クローディンファミリーは森田らのＰＮＡＳ論文（本年１月号）では、８種類ということになっていたが、現在では１６種類がマウスやヒトでは見つかっている。 実は、この論文が受理された昨年１２月の段階で、古瀬らのＪＣＢ論文を見た人たちが続々とクローディンー１，－２に似た配列の遺伝子をデータベース上で見つけ、その性質を調べることなく出鱈目にクローディンー＃＃として、データベースに入れはじめていることに気付いた。 そこで混乱をさけるために、ＰＮＡＳのプレプリントを主だったジャンクション研究者に送って、クローディンー８までの命名について了解を得、また、ヒトとマウスの遺伝子データベースの国際レベルの委員会と相談してクローディンー１５までの割り当てをおこなった。 この命名については、今年の７月に出たTrends
in Cell Biologyの我々の総説に詳細に紹介してある。
一方で、それぞれのクローディンの組織別発現パターンをノザンブロットで調べると同時に、できるだけ多くの特異抗体をそろえる努力を続けた。 その過程でクローディンー１１のように、特別な臓器だけに強く発現しているものがあることに気づいた。 クローディンー１１に関しては、脳と精巣に主に発現しており、その抗体で分布を調べたところ、ミエリンとセルトリ細胞にある特殊なタイトジャンクションを形成しているという興味深い結果が得られている。 クローディンー５と血管の関係についてもおもしろい結果が得られ、現在論文を投稿中である。 このような努力を続けているうちに、このクローディンファミリーのシステムというのはタダモノではないなぁ、という実感が皆の間にわいてきた。
また、タイトジャンクションのＣｅｌｌ Ｂｉｏｌｏｇｙも着実に進んでいる。 多くの種類のクローディンと一種類のオクルディンがどのようにしてタイトジャンクションストランドを作るのか、また、その生理学的意味は何なのか、さらには、クローディンの細胞質ドメインはどのような蛋白質とどのように相互作用しているのか、といった疑問は着実に解けつつあり、これらも論文としてまとまり、投稿中である（実は今年の春から３ヶ月間程、お酒が飯の次に好きな月田が断酒して論文作りに没頭しなければ収拾がつかない異常事態が発生していた）。
個体におけるコンパートメント形成の重要性は、広く認められている事実であるから、いわゆる複雑なリダンダンシ－が存在するようにみえるクローディンをそれぞれノックアウトしていくと、いろいろなおもしろいphenotypeが現れ、ヒトの遺伝病と関係づけられていくのではないかとは、誰でも考えることである。 この方向は、もはや力任せの感があり、あまり我々としては好まないストラテジーではあるが、そんなことも言ってられないので、皆で手分けして進めている。 すでに、マウスができつつある。 そんな中に、まず、４月頃、思いがけないニュースが飛び込んできた。 ウシの常染色体性劣性の遺伝病（まだここでは公表できないのですがコンパートメント形成に関係のある病気です）の原因遺伝子をポジショナルクローニングで追求したところ、クローディンー１，－２に似ているというのである。 早速、配列を送ってもらって調べたところ驚いたことに、クローディンー１からー１５までのいずれでもないではないか！ すなわちクローディンー１６が存在していたのである。 さらに最近、ビッグニュースがサイエンス誌によってもたらされた。 今度は、ヒトの低マグネシュウム血症（やはり常染色体性劣性の遺伝病）の原因遺伝子を追求していた国際チームが、それを突き止めたところ、クローディンファミリーの一員だったというのである。 おもしろいことに、このクローディンがなくなると、腎臓のヘンレループ上行脚のマグネシュウムの再吸収がなくなるというのである。 すなわち、このクローディンはマグネシュウムに対するparacellular channelを形成しているのではないかと派手にブチ上げたのである。 このようなチャネルの考え方は、すでに２０年以上前に生理学的に示唆されていたことであり、クローディンが単純なバリアーを作るだけでなく、イオンに対する透過性も制御していることを示唆している。 もっとも、このグループはクローディンファミリーに属すると言いながら、paracellin-1と呼んでいるところに、彼らの口惜しさが偲ばれておもしろい。 当然クローディンー16ということになると思うがーーー。
ここに至って、密かに突っ走ろうと思っていた我々の目論みは完全に吹っ飛びそうである。 遺伝病とこれだけ関係してくると、多くの研究者がなだれ込んでくるだろう。 我々は、クローディンは極めて本質的に重要な蛋白質群であると確信していたので、当然の結果といえばそれまでだが、もう少しの間はゆっくり楽しめると思っていた。 どうにも忙しい世の中である。 それでも、このような遺伝病の解析がもう一年早くて、我々のクローディンの発見の方が遅れていたらと思うとゾッとする。 贅沢は言うまい。
